「ハインリッヒの法則」
2023-04-12
「ハインリッヒの法則」という言葉を聞いたことがあるだろう。
1つの重大な事故が起きるまでには30近い軽微な事故が起きており、さらにその背後には10倍の300回くらい「ヒヤリ」「ハット」とするような小さな失敗や異状があるという、事故の法則のことである。
つまり、周りにいくつも起きている「あれっ?なんかおかしいな」と思う程度の出来事を見逃していると、それが重大な事故につながるということなのだ。
ただ、そうした小さな出来事に、人はほとんど注意を払わない。
「自分だけの感じ方の問題だろう」「ちょっとしたミスだ」と思って報告しないので表に出ず、本人も、あたかもなかったことのように忘れてしまう。
重大事故の裏の裏にある多くの人の積もり積もった300の「ヒヤリ」「ハット」を失敗として共有し認識し、改善していくのは、とても難しいことである。
しかし、ものは考えようで、小さな失敗や問題がしょっちゅう起きていれば皆が絶えず緊張感をもって仕事に当たり、油断は生まれない。
小さな失敗があるたびに反省し、改善していけば、重大事故を起こさずに済む。
したがって、小さな失敗はたくさんしたほうがいい。
仕事で大失敗しないためのいちばん良い方法は、絶えず小さな失敗をしていくことだと、僕は思う。
その時に大事なのは、失敗したらすぐ、正直に上司に報告することだ。
報告すれば叱られて落ち込むかもしれないが、「重大事故を未然に防いだ」と考えて、頭を切り替えればいいのだ。
小さな失敗なら乗り越えることができる。
失敗そのものを反省したら、いつまでもくよくよ悩む必要はない。
ただし、同じ失敗を何度も繰り返すようでは駄目である。
「あの人は最初の失敗から何も学んでいない。大きな仕事はまかせられないな」ということになってしまう。
若い頃は、誰でも失敗をして上司に叱られるもの。
特に新入社員のときは、何も知らないのだから失敗が多くて当たり前。
でも、会社というのは新入社員が犯す小さな失敗ぐらい、こういうことが起こるであろうと最初からお見通しなのだ。
また、上司には「そろそろこの人も失敗するぞ」というのがわかる。
この時期になると疲れが出てくるとか、仕事に慣れて手を抜きがちになるといった具合に、おおよその見当がつくわけだ。
僕も通ってきた道だし、これまでの面倒を見てきた人達も同じようなものだから、小さな失敗への対処の仕方もある程度心得ている。
ところが、小さな失敗を隠してしまうと、ちょっとやそっとでは取り返しのつかない大きな事故につながる可能性が高くなってしまう。
僕は、優秀な人間ほど失敗を隠そうとする、と思っている。
学校や前の会社ではずっといい成績、入社後も失敗なく仕事をこなしているような人は、本人も周りも優秀だと思っているだろう。
それが小さな失敗を犯してしまった。
本人は自分のプライドを守りたい。
周りから「ああ、この人も普通の人間か」と思われたくない。
だから必死になって失敗を隠すわけである。
しかし、どんなに優秀でも人間は失敗をする。
人間は間違いを犯す動物なのだから、絶対に失敗しないなんていうことはあり得ない。
本人は、「黙っていればずっと優等生でいられる」と思っているのかもしれないが、そもそもの考えが間違っている。
小さな失敗を隠したために、本人どころか会社全体の信頼を失う事態に至ってしまうかもしれない。
一度失った信頼を取り戻すのは、容易なことではない。
だから、「すべてがうまくいっている」と思ったときには充分に注意すべきである。
誰かが小さな失敗を隠している可能性があるのだ。
人間とはどういう生き物かをよく勉強している人なら、最善のときほど最悪をイメージすべきだと知っているので、「ちょっと待て、おかしいぞ。あまりにも順調すぎる」と感じ、小さな失敗や異状に敏感になるはず。
逆に、「私はここ何年も、何一つ失敗はない。すべてうまくいっている」などと自慢げに言う人がいたら、その人の目は節穴だと思った方がいい。
人間について勉強をしていないから、失敗がないのは良いことだと浅薄な捉え方をしてしまうのだ。
何もかも完璧なんていうことは、人間にはあり得ない。
それを忘れて「すべてがうまくいっている」と思っていると、しばらくしてから、隠蔽され蓄積され続けていた失敗がドーンと一気に露呈し、会社がひっくり返ってしまうことがよくある。
そうならないためにも日ごろから、小さな失敗やミスを報告しやすい環境作りというものを、会社全体でやっていかなければならないのだ。
